「東アジア地域包括的経済連携」(RCEP) が ASEAN の輸出入者にとって持つ意味とは
東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、東南アジア(ASEAN諸国)を中心としたオーストラリア、中国、日本、韓国、ニュージーランドの15カ国が参加する広域的な自由貿易協定(FTA)です。
2020 年 11 月 15 日に署名されたこの協定は、10 年の歳月をかけて作られたものです。 交渉過程には幾度かの紆余曲折があり、経済発展や政治体制が異なる国々の間に存在する地政学的に根づく利害関係が浮き彫りになりました。
しかし、今回の自由貿易協定は、東アジアの経済大国である中国、日本、韓国が参加する初めての自由貿易協定となります。何年も協議したにもかかわらず、この中国、日本、韓国はこれまでに自由貿易協定の締結に漕ぎつけることはありませんでした。ここでは、特にASEAN 域内の輸出入業者にとって、RCEP がどれほどの変革をもたらすのかを左右する、この協定の重要な要素をいくつかご紹介します。
まず、東アジア地域包括的経済連携(RCEP) を一言でいうと?
RCEP には典型的な自由貿易協定の典型的な項目がすべて網羅されています。例えば:
- 参加国間での段階的な関税の削減
- 税関手続きなどの貿易円滑化に関する取り組み、技術協力、衛生植検疫措置などの非関税措置への対応
- 電気通信、金融および専門サービスなどのサービス貿易に関する約束
- 投資に関する禁止事項が記載された地域統合リスト(ネガティブリスト方式)
これは、東アジアの経済大国である中国、日本、韓国が参加する初めての自由貿易協定となります。これらの国々は、アジア太平洋地域の貿易全体に大きく貢献しているだけでなく、地域とグローバルのバリューチェーンの重要な部分を担っています。
また、重要なことに RCEP は、カンボジア、ラオス、ミャンマーなど、アジア太平洋地域の後発開発途上国も含めた、十分に包括的なものとなっています。 締約国の多様な開発ニーズに対応できることは、必ずしもその有効性や利点を低下させることなく、すべての締約国の要求を確実に考慮するために重要です。
しかし、アジア太平洋地域はすでに、いくつかの二国間協定や数多くの多国間協定により、複雑に入り組んだ自由貿易協定の場となっています。
こうした自由貿易協定の多くには複雑で異なるルールがあり、活用を妨げる要因となっています。この RCEP は、これを原産地規則に簡略化し、要求を全体的に標準化して、すべての締約国のために活動の場を平準化しています。
理想的にはこれにより、典型的な FTA における複雑な原産地規則の理解が促進され、貿易の促進、海外からの直接投資が促進されることが期待されます。
RCEP により ASEAN 域内の物流はどう促進されるのでしょうか?
RCEP では「通関手続きの迅速化」を認めており、必要な書類を提出することを条件に、参加国が貨物の到着から最大 6 時間以内に通関することを約束しています。
一部の国々や DHL のような国際輸送会社にとって、6 時間は長く感じるかもしれませんが、貨物が「緊急」として認識され、通常の貨物と区別して緊急で取り扱われることは、重要な公約と言えます。
当社DHLでは税関当局へ迅速な通関が必要であることを伝え、こうした緊急貨物が一般貨物として取り扱われることのないよう働きかけています。これにより、DHLでは多くの国で低額の貨物を免税または簡易化された通関要件で通関することが可能となっており、こうした市場における貿易円滑化の支援につながっています。
一度確立されれば、これは税関当局が将来の規制においても、税関管理を損なうことなく、こうした細かい差異を認識することも意味します。
この RCEP では、貿易円滑化の強化を各国が約束していることも重要です。これには、HSコード(調和システムコード)、原産地規則、関税評価、およびリスク管理原則の再確認を要求する能力が含まれています。
こうした約束の中には、世界貿易機構(WTO)の貿易円滑化協定の内容を超える「WTO プラス」もあり、参加国により作成されました。
Eコマースは RCEP の対象でしょうか?
この RCEP のセクションの 1 つでは、相当なレベルの商取引がデジタル空間で行われていることが認識されています。RCEP では、個人データ保護、消費者保護、コンピュータ設備の設置場所に関する規則、国境を越えたデータの流れ、電子的な認証や署名の有効化など、この分野に資する法的枠組みの構築を求めています。
この一部には議論の余地がある分野もあり、この種の約束は世界で初めてのものです。比較のために、欧州連合(EU)に目を向けて見ると、EU では近年、加盟国間の国境を越えたデータの流れに関するルールについて交渉が重ねられてきましたが、ほとんど進展はありませんでした。
しかし、この RCEP では、デジタル空間で行われる商取引への課税をどのように扱うかについては言及されていません。一部の国では、デジタル空間で販売されるサービスや商品に一方的に税金を課しています。
また、アジア太平洋地域の一部では、‘デ・ミニミス(非課税基準額)’の貨物に対して国境で税金を課し、徴収することが議論されています。
これは、徴収できる税収が不当に低いにもかかわらず、貿易処理にかかるコストを大幅に増加させることになります。このようなことをすれば、成長の可能性を秘めた、発展途上段階にある電子商取引分野に悪影響を及ぼすだけになるでしょう。
RCEP は ASEAN の製造業者や荷主にどのような影響を与えるのでしょうか?
製造業者や荷主の方々にとっては今こそ、この RCEP が自社の事業オペレーションにどのような影響を与えるかについて、計画立案を始める時です。サプライチェーンの再構築は一夜にして可能になるものではなく、ある程度の時間と先見性が必要です。
事業の利益につながるよう、いかなる再構築の実現も、この RCEP による関税引き下げと並行して計画される必要があるでしょう。
中長期的に、この RCEP は世界および地域の貿易コミットメントを継続する場となります。RCEP の交渉担当者は、RCEP は「生きている協定」であり、現在の傾向や新たな傾向を考慮して進化させることができる協定だと自賛しています。
この協定は、地域の経済環境が引き続き企業の繁栄を助長し、世界有数のグローバル貿易のファシリテーターである DHL においても「人と人をつなぎ、生活の向上に寄与する」という目標を達成し続けるために重要な公約となります。