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デジタル化とEコマースが、マンガと日本のアーティストにもたらすもの

日本のマンガは海外でも高い人気を誇っていますが、その作品を安全にファンに届けるためには、独自の工夫が必要でした。
日本のマンガは海外でも高い人気を誇っていますが、その作品を安全にファンに届けるためには、独自の工夫が必要でした。
Shueisha Manga Art Heritage Innocent
2021 年 10月 11 日 •

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『イノサンRougeルージュ』©坂本眞一/集英社


今年初め、マンガをモチーフにした映画「Demon Slayer(邦題:鬼滅の刃)」は、オープニングで2,000万USドル(22億7千万円)の売上を記録し、外国語映画の全米興行収入記録を更新しました。2019年に大英博物館が開催した、おそらく日本以外では最大規模のマンガ展は、18万人の来場者を集め、その多くは新しい若い層に属していました。

世界的な現象であるにもかかわらず、マンガ(日本のコミックまたはグラフィック・ノベル)は、エンターテインメント業界ではほとんど認知されておらず、ましてやアートの世界ではほとんど知られていません。しかし、集英社初の「Manga-Art Heritage(マンガ・アート・ヘリテージ)」プロジェクトが開始されたことで、その状況は一変することになります。

このプロジェクトは、日本の出版社である集英社のデジタルコンテンツ部門を率いる岡本正史氏の発案によるものです。岡本氏は10年以上にわたり、世界で最も長い歴史を持ち、最も成功している漫画出版物のひとつである「少年ジャンプ」をはじめとする有名タイトルのために、漫画のデジタルアーカイブと制作を先駆的に行ってきました。

現在、「Manga-Art Heritage」プロジェクトでは、その豊富なアーカイブを活用し、多数のデジタルツールと国際的なEコマースネットワークを活用して、オリジナルのマンガ原画を収集可能なアートに変えようとしています。

「私たちは、マンガの原画を保存する目的でアーカイブを作成しましたが、私は単にデジタル化して終わりにしたくはありませんでした。」と岡本氏は述べています。「さまざまな経験を通して、漫画や作家の創作物を伝えていきたいと思っています」。

Shueisha Heritage Manga Okamoto

マンガの新たなチャプター

マンガの原画は、数百万単位で印刷されるため、厳しい納期で提出されます。しかし、作家たちは1ページ1ページに心を込めて、緻密な絵で物語に命を吹き込んでいます。それは、岡本自身を含め、世界中の数多くの漫画ファンにとって代えがたい芸術となっています。

近年、デジタル技術の進歩により、原画をより鮮明に保存することが可能になりました。 岡本氏のヘリテージプロジェクトでは、集英社が作家と直接連絡を取り合い、美術館で使われるような綿100%の紙に、耐光性のある顔料インクで原画を復刻します。しかし、それはほんの始まりに過ぎません。

「高品質な印刷は、デジタル出版では失われてしまう作品の隠れたディテールを引き出してくれます」と岡本さん。「スマートフォンの画面では、作家のディテールや技術、熱意を理解することは難しいです。さらに、漫画のストーリーの重要なシーンを残すことで、時間が固定され、ファンは作家の詳細な仕事を十分に理解するという新しい体験ができます」。と言います。

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『ONE PIECEC』©尾田栄一郎/集英社

適切なパートナーとのコラボレーションが成功の鍵

アートの世界に飛び込んだ岡本氏は、このプロジェクトを成功させるためには、適切なパートナーが必要だと考えていました。そこで岡本氏は、現代アートのオンラインマーケット「TRiCERA」の創業者である井口泰氏に相談し、Eコマースのプラットフォームと流通ネットワークの構築についてアドバイスを受けました。

岡本氏が重視したのは、このプロジェクトのプリントが貴重なオリジナル作品であることを証明することだった。集英社MANGA-ART HERITAGEプロジェクトで制作されたマンガ作品は、ひとつの作品につき5〜20枚程度しか販売しない。また、作品の真正性を確保するために、作品の履歴や所有者情報を記録するStartbahn社のブロックチェーン技術を用いて認証されています。

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TRiCERAの井口泰CEO(左)と集英社Manga-Art Heritageの岡本正史プロジェクトのディレクター(右)。

次に必要だったのは、信頼できる物流パートナーでした。

「アートビジネスではロジスティクスが鍵になります。」と、井口氏。「TRiCERAでは、誰もがどこからでもアートを購入できるマーケットプレイスを作りたいと考えていました。バイヤーの中には、注文した商品をDHLで届けてほしいと希望する人も少なくありませんでした」。

岡本氏にとって、輸送パートナーを決定する上で重要だったのは、商品の性質をよく理解していたことです。

「1作品が20万~50万円(約4,000ユーロ)の商品で、印刷枚数も限られています」と岡本氏。「DHLは、税関の規制から梱包のコツまで、タイムリーにアドバイスをしてくれました。これは非常に心強く、カスタマーサポートにかける当社のリソースを節約することにもつながりました」。

「集英社と協力して、商品の価値に見合った特別なブランドパッケージをデザインし、中身を保護することができました」と、DHL ジャパンのメジャーアカウントマネージャーである木田裕士は述べています。

Shueisha Manga Art Heritage Packaging

木田氏によると、DHLの自動仕分けプロセスでは箱の角がへこむ可能性があり、また、税関検査の際には、箱が開けにくいとダメージを受けることがあるという。そこで、これらの輸送プロセスに耐えられるよう、シンプルかつ丈夫なパッケージをデザインしました。

「また、美術品などの高額商品を輸送する際は、受取人がフレキシブルに受け取りの日付や場所が選べたり、貨物引取りのオプションが選べるオン・デマンド・デリバリーのツールは非常に便利です」と木田氏は述べています。

美術品や文化的なアイテムには、それぞれの国に特有の税関規制が適用されることがあります。例えば、アメリカにオリジナルの美術品を輸入する場合、通常は関税がかかりません。しかし、価額が2,500USドル(2111.40ユーロ)を超える場合には、輸入者は別のフォームに記入する必要があります。

そのため、物流パートナーは、Eコマースの貨物(特に美術品などの貴重品)が輸送中のトラブルを最小限にするよう重要なアドバイザー的役割を担っています。

「情勢が不安定な中、企業が新しい市場や機会を見出していることはとてもすごいことです。 このような変化の激しい時代に荷主が取り組む際、ロジスティクスの課題を最小限に抑えるために、私たちはできる限りの努力をしたいと考えています。」とDHLJapan代表取締役社長のトニー カーンは述べています。

世界の新進アーティストにとって重要なライフラインであるEコマース

CEOの井口泰氏によって設立されたTRiCERAは、日本の若手アーティストを支援することから始まり、現在では世界中のアーティストによる3万点以上の作品を取り扱うまでに成長しました。

「アートは競争の激しい市場ですが、私たちの原動力となっているのは、若いアーティストが見い出され、私たちのプラットフォームを通じて作品が販売されるのを助けるという目的です」と井口氏は語っています。 子役として俳優経験のある井口は、アーティスト志望者が直面する課題に共感し、会社員を辞めてビジネスを立ち上げました。

「最初の頃は、日本中のスタジオを車で回って、自分でアーティストを発掘していました。最近では、週に数百人もの応募があります。作品が売れると、DHLのロジスティクスチームがアーティストのスタジオから作品をピックアップし、世界のどこにいてもバイヤーに直接届けてくれます」と井口氏は語ります。「クリエイティブに国境はないと確信しています」。

岡本氏のアーティスティックな試みの裏には、より深い目的がある。 岡本氏は、このプロジェクトが、競争が激化している漫画家のために、より多くの機会を提供することを望んでいます。

「現在当社では、年間1,000タイトル近くの新刊コミックを印刷しています。 漫画家は自分の情熱を追求するために厳しい競争にさらされています。だからこそ、この業界にもっと多くのチャンスを作ることが重要なのです」と岡本は語り、「Manga-Art Heritage」プロジェクトの収益を若手作家の支援に充てることを計画しています。「自分が描いたイラストを価値ある作品として使ってもらえるようになれば、作家さんの可能性が広がるかもしれません」。