日本の文具ブランド「カキモリ」 グローバルビジネス成功の筆跡
ものづくりの伝統が息づく活気ある下町コミュニティ、東京・蔵前。この町に店を構える 「カキモリ」は、あるミッションを掲げる文房具のセレクトショップです。
2010年に創業したカキモリは、「書く」ということを通じて人と人を繋げたいという思いから誕生しました。
創業者である代表の廣瀬琢磨氏は、「デジタル化のスピードが増すにつれて、人々のアナログへの渇望も広がっていく」と考えています。
「書くこと」は、アナログなアート
カキモリでは、店頭に並べる商品には一貫した思いがあります。その商品が自分が使いたくなるほど使い心地が良いかどうか、そして購入者に愛着を持って使ってもらえるかということです。
この店を代表する商品のひとつに、オーダーメイドのノートがあります。スタッフの熟練した手によって製本される前に、来店客はノートのパーツを、様々な選択肢からひとつひとつ自分で選ぶというユニークな体験ができます。ソリッドな色合いからノスタルジックなデザインまで、60種類の表紙と30種類の紙から選ぶことができ、顧客は自分好みの選択をしていきます。リングやリボン、ファスナーも数多く取り揃え、自分らしさをさらに引き立てることができます。
ノートの他にも、カキモリは魅惑的なガラスペンやカラーインクのセレクションを誇っています。ここでは、顧客自身がインク・アーティストになることができるのです。14色以上の顔料系インクの中から3色までの色合いを選び、自分だけのカラーインクを作ることができます。
商品知識が豊富なスタッフの手ほどきにより、顧客は自分の好みの色合いが見つかるまで、さまざまな混合を試し、紙の上でテストすることができます。このユニークな調合のプロセスは、思いがけない発見につながり、書くという行為に更なる驚きの要素を加えることになります。
カキモリのパーソナライズされた文房具へのこだわりはインクだけにとどまらず、美的感覚や人間工学に基づいた製品デザインにまで及んでいます。例えば、「ぽたり」という言葉からインスピレーションを得てデザインされたインクボトルは、しずくのようなエレガントな形をしています。
それはまた、ユーザーの使い勝手に最新の注意を払って作られています。インクボトルは20ミリ幅のゆったりとした開口部で、デリケートなペン先を傷つけず、簡単に浸すことができるように8度の傾斜がついています。また、深さが浅いため、コンバーターへの補充が楽にでき、不要なインクがこぼれにくくペンを清潔に保つことができように考えられています。
ビジネスが辿った筆跡
筆記用具に特化したカキモリのように、ニッチで独創的なビジネスの経営には、それなりの困難が伴います。カキモリも例外ではなく、開業1年目は、来店客が少なく苦労を伴うものだったそうです。
しかし蔵前という町が、こだわりのショップが集まる個性的な町として賑わいをみせた始めた時期から、少しずつ風向きが変わりました。チョコレートやコーヒーから革製品まで、この地域は、利益よりも情熱で動く個性的なお店が集まる地域として、人々に知られるようになり人気を集め始めました。
本物へのこだわりと情熱を共有する蔵前の商店主たちは、お互いに切磋琢磨しながら支え合うというこの町独特の生態系を作り上げました。強い仲間意識をベースに、この地域の店舗はつながりあい、支え合い、知識や技術を共有しお互いの商品を高め合うようになっていきました。
そしてこの町でカキモリは、単なる販売店ではなく、紙、ペン、インクの感触を体験し楽しむことができる場として、文具ファンの注目を集めるようになっていきました。
羽ペンからクリックへ
しかしながら新型コロナウイルスの流行で、カキモリは、大切にしてきた店舗での体験と対面でコミュニケーションが制限される中で、厳しい現実に直面することになりました。
「私たちのビジネスの基本は、店頭で文房具の楽しさを味わっていただくことでした。新型コロナにより、私たちは商売のやり方を見直し、変えていくことは避けられなくなりました」と、廣瀬氏は当時を振り返ります。
そこで広瀬氏は、新型コロナの打撃を正面から受け止めるのではなく、Eコマースを活用して海外へマーケットを広げるチャンスと捉えました。これによりカキモリは、下町の小さな小売店からダイナミックな変貌を遂げたのです。
Eコマースへの移行は、カキモリにとって自然な流れでした。しかしハードルもありました。カキモリは、壊れやすいガラスペンを含むデリケートな製品を扱っていたため、発送の面で大きな課題があったのです。またインク類は、彼らの売れ筋商品として欠かせないものでありながら、航空輸送では危険物に分類されることもあります。
こうした課題を克服するため、カキモリは国際輸送においてDHL Expressを起用しました。カキモリのデリケートな製品をスピーディー、かつ安全、確実に輸送できるという信頼を基に物流パートナーとして選定しました。
DHL Expressは、必要な通関手続きと安全な輸送を担保するため、書類作成に必要なサポートなどを随時提供しています。
また、DHLはDEC(DHL Express Commerce)ソリューションを紹介しました。DECは、ロジスティクスソリューションと顧客のEコマースプラットフォームをシームレスに統合することで、出荷プロセスを合理化するものです。これにより、Shopifyのようなプラットフォーム上で直接出荷手続きとロジスティクスを管理できるようになりました。
「絶えず変化するビジネス環境では、適応力が大切です」と、DHLジャパン株式会社 代表取締役社長 トニー カーンは言います。「カキモリ様の素敵な文房具を、世界中の愛好家の方たちへお届けするお手伝いができることを、とても光栄に思います。DECのソリューションは、統合されたEコマースのプラットフォームの出荷プロセスを合理化するものです。これからも日本の小規模の商店のお客様が、越境ECでビジネスを世界に拡大するお手伝いをしたいと思います」。
DHLは、カキモリのグローバルなEコマースへの参入をサポートするために、国内のEコマースで使用される日本の発送情報を、航空貨物運送状(AirWaybill)上に英語で反映させる技術もサポートしました。
ステージは次の章へ
越境Eコマースにより、中国、韓国、台湾などのアジア諸国はもちろん、アメリカ、フランス、イギリス、その他のヨーロッパ諸国にも出荷され、カキモリブランドははるか遠くの海の向こうにまで知られるようになりました。
しかし廣瀬氏は、文具ファンにとってカキモリが愛される存在であるために、創業当初からの本質を守り続けることを忘れてはいません。商品とサービスの質を維持することを意識し、拡大計画には慎重です。
品質はそのままで、カスタマイズしたオリジナル商品への需要の高まりに応えるため、スタッフのスキル、商品知識、サービス効率を高める必要性を強く感じています。ファンの間では、カキモリの専門的なカスタマイズ・サービスをオンラインで利用できるようにしてほしいとの願望も増えています。
廣瀬氏の商品へのこだわりと情熱によって、カキモリは従来のビジネスモデルをデジタル時代に適したものに変えてきました。廣瀬氏は、自身のビジネスの歩みを振り返りながら、それが自分以外の中小の小売店のインスピレーションや励みになることを願って、次のように語っています。
「最初は、私たちの文房具に対する考えやコンセプトが、これほど多くの人に支持されるとは思っていませんでした。SNSなどデジタルの繋がりで、世界中にいるファンに簡単にアプローチできる時代ですから、夢を大きく持って、世界へのマーケットへの拡大を恐れないでほしいです」。