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クリスマスを控え、混乱とスペース不足が続く海上貨物

年末のショッピングシーズンに向けて、貨物の遅延を回避する目的で各企業が早めの出荷を行っているために、海上貨物には今後数カ月間、プレッシャーがかかることが見込まれます。
年末のショッピングシーズンに向けて、貨物の遅延を回避する目的で各企業が早めの出荷を行っているために、海上貨物には今後数カ月間、プレッシャーがかかることが見込まれます。
2021 年 9月 14 日 •

海上輸送スペースの逼迫により、企業は今年のクリスマスシーズンの計画を前倒しする必要があります。というのも、多くの企業が年末商戦に向けてサプライチェーンの混乱が悪化すると予想しているためです。

コンテナ船が現在直面している問題を最も顕著に示しているのが、カリフォルニア州のサンペドロ湾の状況です。ロサンゼルス港とロングビーチ港の外側にある停泊地では、2021年のほとんどの期間、かなりの数の船舶の行列ができていました。

8 月から 9 月にかけて、ロサンゼルス港では平均待ち時間が約 8 日に達し、この北米における主要コンテナゲートウェイの外側にある停泊地では44隻のコンテナ船 がコンテナを降ろす順番を待っていました。

こうした渋滞により、何十万ものコンテナが海上で足止めされ、何百万もの製品や部品の配送遅延の発生につながっています。しかし、サンペドロ湾での行列は、少なくとも 1 年前から限界に近い状態にある太平洋岸のサプライチェーンを構成する要素の 1 つに過ぎません。

海事コンサルタント会社 Hackett Associates の創業者である Ben Hackett はあるインタビューで、「継続的な景気拡大による負担が、物流サプライチェーンに大きなプレッシャーを与えています」と答えています。「アジアやヨーロッパからの貨物を積み出すために船が列を作っていて、船舶の不足と港の混雑が発生しています。

「港湾ターミナルはスペース不足に悩まされており、その影響は陸上にまで及んでいます。また、労働問題が港湾、鉄道、トラック会社にも影響を与えています。経済回復がもたらすこの側面は、喜ばしいものではありません。」

スケジュールの乱れは続く

こうした米国での混乱に加えて、定期船のスケジュールの乱れによって、世界のコンテナ船のキャパシティが奪われ、アジアで必死に必要とされている空のコンテナ不足が重なって、世界にも影響が及んでいます。

海運の解析を行っているSea-Intelligenceによると1 年の大半を 35〜40% で推移していた世界の定期船スケジュールの信頼性が、7 月には前年同月比で約 40% 低下しました。遅延している船舶の平均遅延日数は6 月より 0.35 日増えて、6.88 日となりました。Sea-Intelligence 社のデータによると、例年に比べて今年の遅延水準は、すべての月で最高の水準となっています。

米国の在庫水準は依然として低く、荷主は年末のホリデーシーズン前に商品を店頭に並べようと必死になっており、その勢いに衰えは見えません。

Hackett Associates 社と全米小売業協会(NRF)が作成した「グローバル港湾追跡レポート」によると、従来の海上輸送ピークシーズンの始まりである、8 月の米国のコンテナ輸入量は237 万 TEU(20 フィート換算単位)に達する、と予測されています。これは前年同月比で 12.6 %の増加であり、全米小売業協会が 2002 年に追跡調査を開始して以来、単月の輸入コンテナ数としては最大となります。

もちろん、 DHL が 9 月に発行した「海上貨物市場の最新情報」で明らかにしているように、サプライチェーンにおける閉塞感の原因は北米だけではありません。

8 月は、アジアでの台風の影響により、アジアから欧米への海上輸送スケジュールにさらなる衝撃が生じました。また、新型コロナウィルスの発生により、ベトナムでは広範囲にわたる出荷遅延が発生し、中国中部の寧波港ではターミナルが閉鎖されました。

「定期船市場では、ピークシーズンであろうとなかろうと、年間を通してほぼ100 %の稼働率が続いています。このため、サプライチェーンは大きな過負荷状態にあり、小さな事故や災難といった些細なオペレーション上の問題でさえ、制御不能をもたらして大きな影響を及ぼす可能性があります」と述べるのは、DHL Global Forwarding の海上貨物部門のグローバルヘッドである Dominique von Orelli です。

バングラデシュのコンテナ港が需要への対応に苦慮する一方、韓国の釜山では 8 月下旬から 9 月上旬にかけて、船員のストライキにより操業が停止する問題に直面しました。また、北欧でも港の混雑が問題となっています。

von Orelli 氏によると、成都、重慶、武漢、広東などの内陸部でのコンテナ不足により、アジアからの海上輸送スケジュールの乱れが発生し、海上からのモーダルシフトが進んでいると言います。

「9 月、10 月はクリスマスに向けて海上貨物の注文が殺到するため、私たちはより厳しい状況が予想されると考えています」と述べています。

しかし、世界のコンテナ輸送の需要は引き続き穏やかに推移しています。 「欧米のマクロ経済の見通しによれば、需要に関してはまだ減速は見られず、海上輸送の信頼性に問題があることから、航空貨物の利用が増加する動きが出ています」と von Orelli は言います。「また、海上輸送のキャパシティが非常に厳しいため、今年はクリスマスシーズンの計画を前倒ししている企業が見受けられます。企業としては在庫を適時に確保したいのです。」

海上貨物輸送の平常運転には至らず

日本の証券会社である野村證券の最新の分析では、新型コロナウィルスのデルタ株の拡大や異常気象に加えて、ロジスティクス能力と需要のミスマッチから来る、より広範な経済的影響の可能性が指摘されています。野村證券は、8 月の PMI レポートにおいて、ほとんどの国で配送時間が拡大と縮小の基準値である 50 を大きく下回っていることを指摘し、これは混乱や不足が広がっているために配送時間に大きな遅延が出ていることを意味する、としています。

野村證券はまた、英国、カナダ、メキシコ、中国、ベトナム、日本、台湾、韓国、オーストラリア、フィリピンを含むいくつかの国々で、8 月のサプライヤーの納期が 7 月よりも延びたことを指摘しました。

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ロサンゼルス港での平均待ち時間は、9 月初旬にほぼ 8 日に達しました。 (写真: Shutterstock)

こうした国々の地理的な広がりは、現在の供給の乱れにグローバルな性質があることを示しています。野村證券は、クリスマスに向けて工場が季節的な需要のピークに近づくにつれて、さらに供給の乱れが悪化すると予想しています。

短期的にはコンテナ船の需要と供給の均衡化が見込めない中、契約運賃およびスポット運賃はすぐには下がりそうにありません。 DHL Global Forwarding Asia Pacific の CEO であるKelvin Leung は、「近い将来、運賃が安定するとは考えられません。混乱の 1 年、コンテナの不足、港の混雑、適切な場所における船舶の不足が重なり、貨物需要が利用可能なキャパシティをはるかに上回る状況が生まれています」と述べています。

Leung は、DHL がお客様に代替ルートやモーダルソリューションを提供していること、その一方で、サプライチェーンが変化を続けるにつれて、海上貨物コストの上昇がいずれは正常化すると考えていることを強調しました。「ただし、コストは上昇したままで、新型コロナウィルス以前の水準には戻らないことを覚悟しなければなりません」と、Leung は警告しています。

もちろん究極の問題は、いつ海上貨物輸送にある種の正常性が戻るかということです。Maersk 社が所有する、APM Terminals 社の最高経営責任者であるMorten Engelstoft 氏は、フィナンシャル・タイムズ紙のインタビュー の中で、「これは需要が減速したときにのみ実現するかもしれない」と述べています。長い時間をかけて、効率性を回復させる必要があります」と語っています。